毎日のように昼夜を問わず救急車が走ります。
暮れもおしせまり、何処へ向かうのか街中に車、人が溢れかえっています。空を見ると鉛色の雲がどんよりとおおいかぶさり、こんな日は気分も重たく何かしら嫌な感じがします。
そんな気忙しい夕方に、あの交通事故は起こりました。
幹線道路を横切ろうとした高齢の男性が軽トラックに撥ねられた痛ましい事故でした。私たちが現場到着すると倒れた男性の傍らに若い男性がひざまずき、「だいじょうぶか?」「だいじょうぶか?」と呼びかけていました。
倒れた男性を見ると、「ううう・・・」と意思の無い声を出すだけで、一見して危険な状態であることが解りました。
病院収容2時間後、多発性外傷により亡くなり、我々隊員の間にはどうすることも出来なかった何とも言えぬ無力感が残りました。
事故にはいろんな原因が考えられます。夕方の暗くなり始める時間帯、家路を急ぐ車、人、目立たない服の色、雨・・・。あの時こうしていたら、5分早く家を出ていれば、タラ、レバを言えばきりがありませんが言わずにはいられないのです。
そして事故を未然に防ぐために夜は目立つ服で外出するとか、停車している車の間から人が出てくるかもしれないとか、注意することも大切です。
事故現場で傷病者に声をかけていたその若い男性は、応急手当の第1歩である、まず声をかけることをやっていたのでした。相手を思いやり、心配する心が思わず声をかけさせるのです。そしてこの声をかけることこそが救命へとつづくリレーの扉を開けることなのです。相手を思いやる心、それはまた自分をも大切にしていることになるのです。
多勢の見ている前で声をかけるのは、本当に勇気のいることです。しかし、倒れているのが自分や家族だったらどうでしょう。何もされずただ見ているだけだとしたら・・・。
何も難しいことはありません。自分の出来ることをやればいいのです。
|